第10回「先輩音楽人に聞け!」は天野丘
さんです。
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■天野丘(あまのたかし)
1963年生まれ。中学生よりギターを始める。Roots音楽院で沢田駿吾に師事。
後に三好功郎のアシスタントを勤めながら自己のグループを結成。ライブハウスで演奏活動を開始、
現在も様々なカタチで活動中。
鈴木勲(b)ファミリー、井上淑彦(ts)、大友
義雄(as)、福井五十雄(b)、塩本彰(g)スモール・オーケストラ、大野えり(vo)、なかにし隆(p)、小島のり子(fl)、仲宗根かほる(vo)、寺井尚子(vin)、カルメンマキ(vo)
他と共演・レコーディングもしている。日本工学院八王子専門学校ミュージックカレッジ・ギター科では後進の指導に当たっている。
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文・インタビュー 佐藤ヒロオ(さとう ひろお)
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1962年9月18日生まれ。
毎晩、トッププロミュージシャンが演奏していることで全国的に知られるライブハウス「荻窪ルースター」のオーナー。著書「荻窪ルースター物語」、「ライブハウス
オーナーが教える絶対に盛り上がるライブステージング術」(ポット出版)がある。 |
荻窪ルースター http://ogikubo-rooster.com
★音楽人をご覧の皆様にはプロミュージシャンの道に進みたいと考えている人も多いでしょう。
でもどうやったらプロになれるのか?
最近はその選択肢のひとつとして専門学校を選ぶ学生さんたちの数も増えています。
では音楽の専門学校に入ってくる生徒たちの志望動機や意識とはどんなものなのか?
さらに専門学校に入ったのならどうしていくべきなのか?
今回はこの辺りをプロのギタリストであり、専門学校の教壇にも立っている天野丘さんに伺ってみました。
■まず初めに伺いますが、音楽の専門学校への学生たちの志望動機はどのようなものが多いのでしょうか?
はい。志望動機の前の段階ですが、まずその人には好きなアーチストがいて、自分もそういう風になりたいというのがまず音楽をやるきっかけになったのだと思います。
でも目指すにしてもどうしたらいいのかわからない。
なので専門学校に入ったという経緯が多いですね。
あとは親の手前とか、まだ就職したくないので専門学校にでも行っておこうという人もいると思います。
でも、そういう生徒さんはそれはそれで学生生活という部分ではエンジョイしていたりもしますね。
■なるほど、親の手前の方は置いておくとしまして(笑)、好きなアーチストがいて音楽を始めるというのはすごく一般的でわかりやすいですね。
その先には、独学で学ぶ人と専門学校に進む人とに分かれる。
ここで何か違いがあるでしょうか?
一般論ではありますが、若い人が好きなアーチストのようになろうと思うと、どうしても似たようなことばかりを一生懸命にやってしまいます。
たとえば、オリジナル曲を作るとどこか影響を受けてしまうとか、ギターにしてもそのアーチストが弾くようなことだけをうまく弾けるように練習してしまうんですね。
でも専門学校ではまずは音楽の基礎を教えます。
言ってみればその人が好きなアーチストの音楽というのは音楽全体から見るとものすごく狭くて、それだけ練習しているのではそれしかできない人になっちゃいます。
プロの世界ではそれでは通用しませんからね。ですので知っておかねばならぬことを教えていきます。
■例をあげるとするならどういう感じですか?
たとえば、フォークギターの弾き語りをしているアーチストが好きだとします。
でもギターを弾きながら歌うってそんなことは独学でもできちゃうわけです。
譜面が読めなくても弾き語りならできますからね。
でもなぜそのメロディの時に、このコードなのかっていう意味までは独学だとなかなか考えようとまではしません。
さらに言うなら、弾き語りのアーチストを目指している人にしてみれば、そんなこと知らなくても弾いて歌えればいいじゃないかって思ってしまう。
するとその人の音楽の知識はそこでストップしちゃうわけです。
コードは分解するとメロディのスケールでできていますが、その知識があればこのコードは普通だけど、このメロディに使えるコードは他にこういうのがあるっていうことがわかります。
すると曲のイメージをいろいろ変化させることができるわけですね。
ここまでは独学だとなかなかいかない。
なのでものすごく大きな違いが出ると思います。
■プロになろうと思っている学生さんたちは弾き語りにしてもバンドにしてもメジャーデビューを目標に専門学校に入ってくるのでしょうか?
そうですね。
プロになることイコール、メジャーデビューすることだと思っている生徒さんが多いのは事実でしょうね。
なにしろこの前まで高校生でしたから。
でも授業を受けることで、だんだん、「なんだか違うっぽいぞ」って見えてくるんです。
もちろん、メジャーデビューすればプロミュージシャンでしょう。
でも何の音楽の知識もなくプロの世界に入ってやっていけるほど簡単な世界じゃありません。
仮にデビューできたとしても人気が出なかったり、そのバンドが解散したり、契約打ち切りになったとします。
するとその後、ミュージシャンとしてプロの世界に残るのは難しい。
若い人はミュージシャンの仕事ってデビューしてテレビとか出てコンサートやって自分がスポットライトを浴びて、という風に思いがちなんですが、実はメインではない人のほうが圧倒的多数なんです。
演奏やサポートやレコーディングとか、それを誰がやっているのかというとプロミュージシャンたちがやっている。
それらがプロミュージシャンの仕事なのですが、じゃあそうなれればいいなと思ってもそう簡単ではありません。
なぜならプロの世界にはその道のプロが大勢いますから知識も実力もない人に仕事は回って来ないわけです。
■厳しいお話ですが、当然といえば当然ですね。専門学校に行けばそれがわかってくるのでしょうか?
うーん、わかってはくるのですが、さすがにまだ学生ですから意識は低かったりしますね。
たとえば、好きなアーチストの曲を完璧に弾けたり、すごい早弾きのギターソロを寸分たがわず弾けるようになりましたっていうのは、そのアーチストと同じくらいすごいっていうことにはなりませんよね。
それは素養があるってことだけなのですが、それを「俺はこんなに弾けるぜ」って喜んでいる生徒もいます。
コピーできる生徒は自信満々で弾けない生徒は自信喪失したり…。
ロックしか弾けない人にジャズのコードを弾いて見せて「このコード知ってる?」と自慢してみたり…。
そういうのは我々からするとすごく底辺での争いをしているように見えちゃう。ですので、音楽の知識だけではなくて、精神的に向上もさせてあげなくてはならない。
■では逆に意識の高い生徒さんはどんな生徒さんでしょうか?
子供の頃から英才教育を受けているとか、親が見て音楽の才能があるからとか、そういうことで入ってくる生徒さんも多くいますが、才能だけではだめなんですよね。
「俺は才能があるからさ」なんて思っている人よりも、自分のやりたいこと、理想としている音楽のサウンドが具体的に見えている人は学校で教わることの中から必要なことをチョイスして自分の血肉にしていきます。
ですので、そういう生徒さんたちのほうが意識という面では高いと思います。
入学時で比べたら才能では差がついているように見えていたのに、しっかり勉強することでその差は縮まるし、逆転もするんです。
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